輪ゴムを見つけると、たいてい手首に巻いてしまう。理由はわからない。ただ、かたちがそうさせる。役目を終え、ぽつんと置かれた輪ゴムが待っている。拾って、ひと伸ばし。軽い抵抗を指に感じながら、くるりと巻く。あの感触を知らない人を探すほうが、きっと難しい。役目を持たないままで、世界の無数の指先が、同じ動きをしている。
一時期、A4の紙を何枚か四つ折りにして、輪ゴムで束ね、ポケットに入れていたことがある。メモにもなるし、広げればノートにもなる。その一手間が、ただの紙束を、自分印に変えていた。やめたのは、一手間かける気持ちが遠のいた頃だった。
結局、一番さまになるのは、髪を無造作に輪ゴムで留めた姿だと思う。頭のかたちがきれいな人だと、なめらかな半円の先に、ぴゅっと束ねられた髪が垂れている。その無造作の中に、ひそかな意思を感じるときがある。棚の上に、用のない輪ゴムがひとつ。輪ゴムのようなもの。他に、何があるだろう。