テレビで映画を観るのがあたりまえだった頃、映画はいつもスタンダードサイズの画角だった。ヨコとタテの比率は、4:3。それがごく自然なものだ……と思っていたけれど、当時テレビで観ていた洋画の多くは、左右が切り取られていたと、後になって知った。
忘れられないのは、中1の時に観たアメリカ映画『クレイマー、クレイマー』(1979年)。母親が涙ながらに部屋を出ていくところから映画は始まり、ダスティン・ホフマン演じる父親が、幼い息子とふたりで暮らし始める。フレンチトーストの作り方がわからず、パンをちぎってフライパンに押し込みながら、平静を装ってうろたえる父。その様子を見ている息子の顔に、みるみる不安がにじんでいった。
あの有名なシーンを大人になってから、DVDで観て驚いた。画面がやけに広いのだ。『クレイマー、クレイマー』は、アメリカン・ビスタ(1.85:1)というワイドな画角で撮られていた。でも、その横に広がる画角が、記憶の中の映像と噛み合わない。まるで別の映画を見ているような感覚が、ずっとつきまとった。アップで映し出されるふたりの表情も、引きのショットに映るニューヨークの移りゆく季節も、無意識に4:3に補正して観ていたのだ。そのことに気づいた時、静かな衝撃を覚えた。
目の前に棚がある。何も置かれていないそのフレームから、4:3の景色がのぞいている。