ぼろぼろになるまで見返した写真集に、都築響一の『東京スタイル』がある。いつかの引っ越しで紛れてしまったのか、もう手元にはない。生活感むき出しの部屋の写真の上に、太くて赤いゴシックで書かれたタイトル。あのデザインごと、「こういう暮らしがあってもいいんだ」という許可証みたいに、いまも頭の中に居座っている。
本棚を分散させる、という発想をくれたのは、あの一冊だった。トイレ、押入れ、部屋のすき間。『東京スタイル』に写る部屋には、「ここに本棚？」と言いたくなるような場所に、本がねじ込まれていた。整ってはいないのに、不思議と楽しそうで、「本棚は一カ所でドンと構えるもの」という思い込みが、少しほぐれた。
勢いで、小ぶりの棚を３つ買って、台所、洗面所、押入れに配置した。選書が思いのほか楽しい。場所が本を選ぶのだ。眠る前に読みたいもの、ラーメンを茹でながらつまみ読みしたいもの、洗濯を待ちながら読む一篇。家のあちこちに、小さな分室をつくっていくような感覚だった。
生活の細切れな時間が、「読書寄り」に塗り替えられていった。家の中で、読みかけの本が同時多発的に進んでいく。「さあ読むぞ」と構える時間より、「ついでに読む」時間のほうがずっと多いのだ。
『東京スタイル』に写っていた部屋は、どれも完璧からは程遠かった。床にはものが散らばり、棚はぎゅうぎゅうで、それでもそこには、その人なりの生活のリズムが見えていた。きちんとしていなくても、ちゃんと生きている、という証拠みたいだった。
