見た瞬間に取りつかれてしまう映画が、まれにある。テレンス・マリックの『天国の日々』(1978)のファーストカットは、まさにそれ。空と地の境界がやわらかく滲み、草が風に揺れ、人の影が淡く溶け合う。語られる物語よりも、その光に包まれた風景の方がずっと胸に残り続けた。
奇跡のように美しいものに出会ったとき、その理由を探してしまう。知らないままでいたいと思いながら、どうしても探してしまう。あとで知ったことだが、この映画のシーンほとんどが「マジックアワー」と呼ばれる時間に撮影されていたものだった。日没直後や日の出前、わずか30分ほどしか訪れない特別な光の時間。赤みを帯びた光がすべてを包み、影は長く伸び、輪郭はやわらかくにじむ。劇的に何かを変えるわけではないのに、すべてがどこか現実以上に美しく見えてしまう。
その光は世界中で毎日くり返す時間であるはずなのに、私たちが気づけるのはほんの短い瞬間だけだ。部屋の壁にふと浮かんだ模様や、窓辺のグラスに当たった光が、ゆらめく線となって映るとき。そんなときに、不意にマジックアワーの気配を感じる。見慣れた風景の輪郭がふっと揺らぎ、言葉にならない何かが立ち上がってくる。時間の境目にだけ開かれる、ごく短い通路のようなもの。