学校の机の引き出しは、口がずっと開いている。あれを「引き出し」と呼んでいいのかどうか、少し迷う。正面にぽっかりと口を開けた一マスの空間。今まで出会ったいちばんミニマルな棚のかたちだ。教科書を持ち帰らなきゃいけないのに、いつも入れっぱなしにしてしまう人。カビたパンが出てきた、なんてこともあった。毎日片づけて、毎日ちがう人が使う。その一つだけの共有空間に、なぜか惹かれてしまう。
中3の運動会で、緑のはちまきを使った。家で洗って翌日に提出する決まりだったのに、すっかり忘れていた。ポケットに突っ込んだまま、ぐちゃぐちゃになったそれを、なぜか引き出しに放り込んでしまった。
その日の学級会。先生が神妙な顔で話し出した。「一つだけ……洗われていないはちまきが混ざっていました。とても、残念です」あとで名乗り出てください、と言われたけれど、名乗らなかった。
生駒先生、今さらですがごめんなさい。