中目黒に、Waltzというカセットテープの店がある。そこに通うようになってから、ラジカセで音楽を聴く習慣が戻ってきた。部屋のどこに置こうか迷って、結局ベッド横の出窓に置く。寝ながら聴くのに、ちょうどいい場所だった。
ラジカセのデザインは、出窓に置くことを前提にしているのかもしれない。置き場が決まれば、寝る姿勢も決まる。後頭部ごしに聴くのがしっくりくるので、体を出窓と反対側に傾けて寝ていることが多い。カセットを止めたり、次を差し替えるときは、体をくるりとラジカセの方へ反転して、腕を伸ばす。音を聴くことと、そのための動きが、ひとつながりのアクションとして日常に馴染んでいく。
繰り返し聴くのは、レナード・コーエンの古いベスト盤。店で見つけたとき、カズオ・イシグロが好きだと言っていたのを思い出した。遠い昔に生きていた人の声を聴いてるような錯覚がする。志ん生の名作選もいい。滑舌が悪くて聴き取りづらいところに、妙を感じる。片面の一席を聴いている途中でたいてい寝落ちするが、夢に持ち越して、まだ聴いているようで心地いい。
再生が終わると、「カシャン」と鳴る。その音が好きだ。なにかの区切りをちゃんと告げてくれる。“物理的な終わり”があるだけで、聴いたことの感触が確かになる。