恩師が、もう一人の恩師に会いたいと言った。その一声をきっかけに、かつての上司とお食事をした。気づけば二人の恩師に挟まれた夜になっていた。
思えば、彼から怒られたという記憶が全くない。それどころか、いつも笑顔だった。その笑顔を見ているだけで、なんとなく場が緩むような人だった。それでも、一度だけやんわり言われたことを、何年も経った今もふとした瞬間に思い出す。
「機嫌が悪いことがあって当たり前だけど、打ち合わせでは、なるべく笑ってた方がいいよ。機嫌って伝染するから」。
ポーカーフェイスのつもりで、たぶん全然そうでない自分には、笑って聞き流せない言葉だった。怒ったことのない人がボソッとつぶやく言葉には、不思議な重さがある。しかもその人が、本当にずっと笑顔でいた人だから、なおさら。
独立してからも、何度となく思い出しては、作り笑いをしてきた。そのことを伝えようと思っていたのだけど、話が四方八方に盛り上がって、結局できなかった。写真の一枚も撮り忘れるような、しみじみと嬉しい夜だった。