掃除は、途中でやり過ごす。使い終わった布袋を、とりあえず棚の上に置いて、そのまま本をめくり始めて、時間切れとなる。数日後、ふと棚を見ると、その布袋がいい感じに“くたっ”としていた。柔らかく形を崩した姿が妙に馴染んでいて、「……これ、ありかも」と思ってしまった。同じようなことがあった。沖縄のスーパーで買い物したときにもらった、あのちょっと薄めのビニール袋。帰ってきて、とりあえず棚の縁に引っかけた。それを見たとき、なぜか『アメリカン·ビューティー』を思い出した。風に舞ってダンスするビニール袋。あのシーンを見てから、ビニール袋のことを、ちょっといいなと思うようになった。
役割を終えても、まだそこにあるもの。ちょっと透けて、軽くて、風を孕むかたち。そんなふうに、日常のなかの「とりあえず」が、 静かな存在感を持ち始める。最初から「見せる」つもりではなかったものたちが、棚というステージの上で、不思議な存在を放ちはじめる。帽子、鍵、読みかけの本、芯ギリギリの鉛筆が入った瓶 —— どれも、「しまう」という機能から少しはみ出したまま、そこにいる。今日もまた、とりあえず何かを置いて眺めてみる。