ニューヨーク発のデザインメディア「LEIBAL」にて、プロダクトの背景を読み解くレビューを掲載いただきました。LEIBALは、ミニマルデザインを中心に、建築・インテリア・家具・プロダクトをキュレーションするオンラインメディアです。
英語原文は、こちらでお読みいただけます。
(日本語訳)
ONCEは、日本を拠点に活動する建築家・工藤桃子が手がけたミニマルなシェルフシステムです。その真価が現れるのは組み立ての瞬間。抽象的な部材の集まりが、突然、建築的にしっかりとした、しかも自由に形を変えられるシステムへと変わるのです。
ONCEは完成品の家具ではなく、未来へと開かれた可能性として存在し、デザインにおける「完成」とは何かを問いかけます。工藤と協働チームにとって、フラットパックはただの輸送手段ではなく、変化や可能性を象徴する仕組みなのです。
ONCEの特徴は、何よりも「リバーサブル(両面性)」にあります。従来の棚のように片面を壁に押し付けて隠すのではなく、ONCEは空間を両側から使えるように開きます。現代の住まいは部屋同士がゆるやかにつながり、ひとつの空間が複数の役割を担うこともしばしば。収納と展示の境界も曖昧になっています。ONCEはそうした暮らし方を自然に受け止め、単一の用途に縛られない自由なレイアウトを可能にします。
工藤の建築的な視点は、デザインの隅々に息づいています。師である藤森照信の、幻想的でありながら土地に根ざした建築思想の影響も感じられます。高さや幅、配置をシンプルな仕組みで自在に変えられるモジュールは、戦後日本の住まいに見られた柔軟な空間づくり──障子や畳を使って、季節や生活のリズムに合わせて部屋を変える感覚──を思い起こさせます。
素材感にも、工業的な精度と人の手の温かみが同居しています。部材は、端正な仕上げや均一な精度、触れたくなるような質感を備えていますが、決して冷たい量産品の完璧さではありません。そこには「つくられた温もり」が漂い、同じ形の繰り返しが単調さではなく、心地よいリズムとなって空間を彩っています。
文:レオ・レイ(Leo Lei)|LEIBAL 創設者